症状・疾患について
Symptoms / Diseases気管支喘息の概要
気管支喘息は、気道の慢性炎症が特徴の疾患で、変動性のある気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳などの症状を引き起こします。気道炎症には、好酸球、好中球、リンパ球などの炎症細胞や、気道構成細胞、液性因子が関与しています。症状は自然に、または治療によって改善する可逆性を示し、気道狭窄や咳は気道炎症や気道過敏性の亢進によるものです。
分かりやすく言うと、気管支喘息とは、持続的な炎症によって気道が過敏になり、咳、痰、息苦しさ、さらには喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー)が起こる病気です。この炎症は非常に複雑な状態を指します。
気管支喘息の症状について
気管支喘息の診断には以下の6つの項目が参考にされますが、いくつ当てはまれば診断確定とは言えません。
- 呼吸困難、喘鳴、胸の息苦しさ、咳の反復
- 可逆性の気流制限
- 気道過敏性の亢進
- 気道炎症の存在
- アトピー素因
- 他疾患の除外
気管支喘息は患者様ごとに臨床経過が大きく異なり、特徴的な兆候を欠くことも少なくないため診断が非常に難しい病気です。
気管支喘息の診断と検査について
当院では、呼吸器・アレルギー疾患の観点で、「難しい病態だからこそ、しっかりと診断していこう」という方針で診療にあたっています。
問診・聴診に関して
診断にはまず問診が非常に重要です。以下の点を詳しく伺います。
- 咳のきっかけ(風邪の後、掃除の後など)
- 痰や鼻水の有無
- 元々の咳や痰の出やすさ
- アレルギーの有無(花粉症、食べ物、薬剤など)
- アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎の合併の有無
- 特定の場所(室内、野外、古い建物)や時間(早朝、夜間)での咳の有無
- ペットの飼育状況
- 運動やストレス、天候などによる症状の変化
- 家族に気管支喘息と診断された方の有無
同時に、他の疾患の除外も非常に重要です。
- 発熱や風邪の症状:気管支炎、肺炎、感染後咳嗽の可能性
- 喫煙歴:肺気腫の可能性
- アルコール摂取や食後症状:逆流性食道炎の可能性
- ストレスや疲労による発作:心因性咳嗽の可能性
- 服用中の薬剤:薬剤性咳嗽の可能性
問診の後、聴診で喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー)の有無を確認します。喘鳴がある場合は気管支が狭くなっていることを示しますが、それが気管支喘息であるとは限りません。気管支喘息以外にも気管支ポリープ、COPD(肺気腫)、心不全など様々な病気が考えられるため、検査をおすすめしています。
診断の検査について
問診で気管支喘息の可能性を探った後、まずはレントゲン検査をご案内することが多いです。レントゲンでは気管支喘息自体を診断することはできませんが、以下の重篤な疾患を除外するために非常に重要な検査です。
- 肺炎
- 結核
- 肺癌
これらの疾患は早期発見が非常に重要であり、多くは胸部レントゲン写真で判明します。そのため、咳が続く方にはまず胸部レントゲン検査をお願いしています。
気管支喘息の治療法について
喘息の治療は大きく分けて2種類あります。
- 長期管理治療:喘息の炎症を抑え続け、喘息の悪化を防ぐ治療
- 発作治療:息苦しさや咳などの喘息発作時に、症状を和らげる治療
現在の気管支喘息のガイドラインでは、長期管理治療が非常に重要視されています。
当院の長期管理治療
気管支喘息は発作を繰り返すほど重症化し、気管支が肥厚し固くなる「リモデリング」という状態になり、薬が効きにくくなることがあります。また、ストレス、過労、風邪といった回避しにくい要因が発作の誘因となることも多いため、長期管理が重要です。
症状が安定した患者様には呼吸機能検査を提案しています。肺活量や1秒量といった数値を測定し、症状がなくても肺の状態を客観的に評価することで、長期治療のモチベーションに繋げていただきたいと考えています。
喘息の治療は、症状の重症度に応じてステップが分かれています。
ステップ1:ICS(低用量) ※症状が稀なら必要なし
ステップ2:ICS(低~中用量) + 以下のいずれか1剤を用いる:LTRA, テオフィリン除放製剤 ※症状が稀なら必要なし
ステップ3:ICS(低~中用量) + 以下のいずれか1剤あるいは複数を併用:LABA(配合剤使用可), LAMA, LTRA, テオフィリン除放製剤
ステップ4:ICS(高用量) + 以下のいずれか1剤あるいは複数を併用:LABA(配合剤使用可), LAMA, LTRA, テオフィリン除放製剤, 抗IgE抗体, 抗IL-5抗体, 経口ステロイド薬, 気管支熱形成術
ICS(吸入ステロイド薬)が治療の中心となります。現在はLABA(長時間作用型β2刺激薬)との配合剤が主流です。当院では患者様のライフスタイル、呼気NO数値、症状に応じて最適な吸入薬を選定します。初めて吸入薬を使用する方には、連携する調剤薬局と協力して丁寧に使い方を指導します。
内服薬についても、気管支喘息のガイドラインに沿って適切に処方します。
内服薬や吸入剤でコントロールが難しい重症の患者様には、バイオ製剤(注射薬)も選択肢となります。バイオ製剤は高価であり、侵襲性も伴うため、導入については十分に相談の上決定します。当院では、バイオ製剤の導入は総合病院に依頼しますが、導入後の安定期には院外処方で対応することも可能です。当院では週7日診療を行っているため、継続しやすい環境を提供しています。
症状が安定している軽症から中等度の患者様については、ガイドラインに準じて3~6か月ごとに薬量を減らしていくステップダウン治療を行っています。症状がなくても炎症がくすぶっている場合があるため、診断時と同様に定期的に呼気NO検査を行い、多角的に状態を評価しながら薬の減量を進めていきます。
気管支喘息発作の治療
症状がひどく、早急な対応が必要な喘息発作時には、当院は治療設備を整えています。
発作型 | 初期治療 | 追加治療 |
小発作 | β2刺激薬吸入 | β2刺激薬吸入反復 |
中発作 | β2刺激薬(反復可) | 酸素投与(Spo2<95%), (基本的に入院), ステロイド薬投与(静注・経口), 輸液, アミノフィリン持続点滴(考慮) |
大発作 | 入院, β2刺激薬吸入反復, 酸素投与, 輸液, ステロイド薬静注, インプロテレノール持続吸入 | ステロイド薬静注反復, アミノフィリン持続点滴(考慮) |
呼吸不全 | 入院, インプロテレノール持続吸入, 酸素投与, 輸液, ステロイド薬静注, 気管内挿管, 人工呼吸管理, アミノフィリン持続点滴(考慮), 麻酔薬(考慮) |
喘息発作時には、まずネブライザーという機械で霧状の薬を吸入します。当院では複数台のネブライザーを用意し、同時に複数の患者様に対応できるよう準備しています。
それでも改善しない場合や、症状が最初から重い場合、呼気NOが非常に高い場合には、ステロイドとアミノフィリンの点滴を行うことが多いです。当院には処置室とは別に点滴室があり、中等度の治療に対応可能です。酸素飽和度を測定しながら、点滴と吸入で治療を進めます。また、喘息発作の主な原因の一つが感染症であるため、点滴時に採血を行い、炎症反応を即日確認し、必要に応じて抗菌薬の点滴投与も行います。
酸素飽和度が低い、点滴でも症状が改善しないといった場合は、大発作以上の治療が必要となります。その際には、速やかに総合病院と連携し、入院治療が必要な場合は紹介させていただきます。
当院では、気管支喘息発作に対して総合病院の外来と同レベルの対応ができるよう準備しています。また、お子様や介護が必要な方で入院が難しい場合には、酸素飽和度や状態を確認しながら、連日点滴治療を行うことも可能です。苦しくて動けないレベルでなければ、まずは当院にご来院ください。もし動けないほど苦しい場合は、大発作の可能性が高いため、救急車の利用をご検討ください。
気管支喘息の予防について
気管支喘息の慢性疾患であり、治療を継続することが重要です。当院は週7日、夜遅くまで診療を行うことで治療を継続しやすい環境を提供しています。お話だけでなく、検査結果も踏まえて患者様の状態を多角的に評価し、全力でサポートいたします。
よくある質問
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咳が長く続いていますが、喘息の可能性はありますか?
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咳が長く続く場合、気管支喘息の可能性も考えられます。特に夜間や早朝に咳が出やすい、ヒューヒュー、ゼーゼーという音がする、息苦しいといった症状がある場合は、一度呼吸器内科を受診されることをお勧めします。当院では、問診やレントゲン、呼気NO検査などで詳しくお調べいたします。
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喘息は治る病気ですか?
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気管支喘息は慢性疾患であり、完全に治癒することは難しいですが、適切な治療を継続することで症状をコントロールし、健康な生活を送ることが可能です。症状が安定している場合でも、自己判断で薬を中断せず、医師の指示に従って長期管理を続けることが大切です。
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吸入薬の使い方が難しいのですが…
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初めて吸入薬を使用される方や、使い方が不安な方には、連携する調剤薬局と協力して丁寧に指導いたします。吸入薬は正しく使用することで最大の効果を発揮しますので、ご不明な点があれば遠慮なくご質問ください。
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喘息発作が起きたらどうすればいいですか?
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喘息発作が起きた際は、まず処方されている発作治療薬(SABAなど)を指示通りに吸入してください。それでも改善しない場合や、息苦しさが強い場合は、速やかに医療機関を受診してください。当院では、ネブライザー吸入や点滴加療など、発作時の治療に対応しております。動けないほど苦しい場合は、救急車の利用をご検討ください。
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子供の喘息も診てもらえますか?
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はい、お子様の気管支喘息も診療しております。お子様の症状や状態に合わせて、適切な診断と治療を行いますので、お気軽にご相談ください。