症状・疾患について
Symptoms / Diseases糖尿病について
糖尿病は血液中の糖分(血糖)が過剰になることで血管に炎症を引き起こし、全身の血管に障害を招く病気です。初期には自覚症状が少ないため放置されがちですが、進行すると様々な合併症を引き起こし、重篤な状態に至る可能性があります。
糖尿病の症状について
糖尿病の初期には以下の症状が現れることがあります。これらの症状は徐々に進行するため、気づかれにくいことがあります。
- 口渇: 喉が異常に渇く
- 多飲・多尿: 水分を多く摂り、尿の回数や量が増える
- 体力低下: 疲れやすい、だるさを感じる
- 眠気: 日中に強い眠気を感じる
高血糖状態が続くと血糖自体が血管にダメージを与え、特に末梢神経、目、腎臓に悪影響を及ぼしやすくなります。これらを糖尿病の3大合併症と呼びます。
末梢神経障害
細い神経からダメージを受けやすく、手足のしびれ、感覚の鈍さ、こむら返りなどの知覚神経の障害、四肢の筋力低下、目の周りのぴくつきなどの運動神経の障害、立ちくらみ、ほてり、食欲低下・増進、勃起障害などの自律神経障害が現れることがあります。重症化すると、足に傷ができても痛みを感じずに潰瘍から壊死に至り、最悪の場合、足の切断が必要になることもあります。
糖尿病網膜症
目の網膜の血管は非常に細く、高血糖が続くことで毛細血管が破裂し出血します。視野が見えにくい、ぼやけるなどの症状が現れ、進行すると失明に至ることもあります。
糖尿病腎症
腎臓は尿から糖分を排出する機能を持っていますが、高血糖が続くと腎臓のろ過装置が傷つき、タンパク質など重要な物質まで排出されるようになります。疲れやすい、めまい、だるさなどの症状が現れ、腎機能が低下するとむくみや血圧上昇を引き起こします。最悪の場合、腎臓が機能しなくなり、尿毒症で命に関わる状態になると、週に3回の人工透析が一生必要になります。
糖尿病の診断と検査について
糖尿病の診断と重症度の判断には以下の2つの項目が非常に重要です。
- 血糖値: 血液中の糖の値で、食事、運動、ストレスなどによって変動します。空腹時血糖(朝食前)、OGTT2時間値(ブドウ糖摂取2時間後)、随時血糖(食後などの普段の値)など、状況によって基準値が異なります。
- HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー): 赤血球の一部であるヘモグロビンと血糖値が結合した比率を示し、過去1〜2ヶ月の血糖値の平均値を反映します。日中の変動がなく、食事内容などにも影響されないため、血糖値と合わせて診断に用いられます。HbA1cが6.5%以上であれば異常値と考えられます。
ガイドラインでは、HbA1cと血糖値がともに異常値の場合に糖尿病と診断されます。当院では、血糖値とHbA1cを即日(10分前後)で測定し、結果をお伝えしています。
また、糖尿病のタイプを確認するために、膵臓から分泌されるインスリン量を示すC-ペプチド(CPR)を測定することがあります。CPRが異常に低い場合は1型糖尿病の可能性があり、総合病院での精密検査が必要になることがあります。CPRが異常に高い場合は、インスリンが大量に分泌されているにもかかわらず効きにくい2型糖尿病であることがわかり、治療薬の選択に役立ちます。
さらに糖尿病の診断には尿検査も必要です。尿中の糖分とタンパク質の排出量を検査し、尿中アルブミンの数値も確認することで糖尿病腎症の早期発見に役立ちます。
糖尿病患者は、暴飲暴食や運動不足が原因で他の病気を合併していることがあります。特に、動脈硬化を促進する因子として、以下の「死の四重奏」と呼ばれる疾患があります。
- 脂質異常症
- 高血圧
- 肥満(メタボリックシンドローム)
当院では血糖値だけでなく、これらの生活習慣病も広く検査し、総合的なサポートを目指します。脂質異常症の指標である中性脂肪、悪玉コレステロール(LDL)、善玉コレステロール(HDL)も血糖値と同様に即日で結果をお伝えできます。高血圧の方には、レントゲンで心臓の大きさや心電図で心臓のリズムも確認します。さらに、採血で膵臓、肝臓、腎臓などの臓器障害がないかも合わせて確認し、患者様の採血回数がなるべく1回で済むようにいたします。
糖尿病の治療法について
当院では主に生活習慣による2型糖尿病の治療を行っています。1型糖尿病が疑われる場合は、総合病院での精密検査をお願いしています。
治療方針は患者様のご希望を伺いながら決定しますが、重症度によっては食事や運動療法だけでは危険な場合もあります。治療の目安となるのはHbA1cです。
糖尿病の治療目標値(HbA1c)
- 血糖正常化を目指す際の目標:HbA1c 6%未満
- 合併症予防の為の目標: HbA1c 7%未満
- 治療強化が困難な際の目標: HbA1c 8%未満
ガイドラインに照らし合わせると、
- 6.5%<HbA1c<7.0%: 患者様のニーズによって治療方針を決定
- 7.0%<HbA1c<8.0%: 薬物療法を推奨
- 8.0%<HbA1c: 薬物療法を強く推奨
HbA1cが8%以上の場合、生活習慣の改善だけで正常化することは非常に困難であり、動脈硬化の進行や臓器障害のリスクが高まります。また、HbA1cが10%以上と重度の糖尿病の方は「糖尿病性ケトアシドーシス」の危険性があり、命に関わることもあります。この場合、症状の有無に合わせて総合病院への紹介や、内服薬・注射薬の組み合わせなどにより、危険な状態を回避する治療を行います。当院では、HbA1cの即日結果により、軽症から重症まで柔軟に対応しています。
2型糖尿病の治療では薬物療法と並行して生活習慣の見直しが非常に重要です。
食事療法
最も重要なのはカロリー摂取量のコントロールです。身体を動かすエネルギー源であるカロリーは、たんぱく質、脂質、炭水化物から摂取されます。糖尿病だからといって炭水化物だけを控えるのではなく、総カロリー量を意識することが大切です。適切なカロリー摂取量は、目標体重と身体活動量から計算します。
- 目標体重(65歳未満): 身長(m) × 身長(m) × 22
- 目標体重(65歳以上): 身長(m) × 身長(m) × 22~25(※75歳以上は適宜判断)
運動量に応じたカロリー摂取量は下記の通りです。
- 軽い活動(デスクワークなど運動量が少ない方): 標準体重 × 25~30
- 中等度の活動(階段の上り下り、通勤で30分以上歩くなど): 標準体重 × 30~35
- 重労働(肉体労働や日常的なスポーツ): 標準体重 × 35~
例えば、50歳、身長170cmで中等度の活動量の方の場合、1.7 × 1.7 × 22 × 30~35 = 約1900~2200kcal が1日の目安のカロリーとなります。
カロリー以外にも以下の点に注意しましょう。
- 食物繊維は多めに摂る
- 甘いものや炭水化物は控えめにする
- アルコールは適量にする(例:ビール500ml程度)
- バランスの良い食生活を心がける
運動療法
糖尿病の治療における運動療法ですが有酸素運動と無酸素(レジスタンス)運動をバランスよく組み合わせることが重要です。
- 有酸素運動: ジョギング、サイクリング、水泳など、持続的にエネルギーを消費する運動です。
- 無酸素(レジスタンス)運動: ダンベル運動、100m走、腹筋運動など、瞬発的にエネルギーを消費する運動です。
運動の目安は「中強度有酸素運動を週150分以上、週3日以上」かつ「無酸素(レジスタンス)運動を連続しない日程で週2〜3日」行うことが推奨されています。
糖尿病の予防について
糖尿病は生活習慣が大きく関わる病気であり、日頃からの予防が非常に重要です。
- バランスの取れた食事: 過食を避け、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。特に、糖質や脂質の摂りすぎには注意が必要です。
- 適度な運動: 定期的な有酸素運動は血糖値のコントロールに役立ちます。無理のない範囲で継続できる運動を見つけましょう。
- 適正体重の維持: 肥満は糖尿病のリスクを高めます。BMI22を目安に、適正体重を維持するように心がけましょう。
- ストレス管理: ストレスは血糖値に影響を与えることがあります。リラックスできる時間を作り、ストレスをためない工夫をしましょう。
- 定期的な健康診断: 自覚症状がなくても、定期的に健康診断を受け、血糖値やHbA1cの数値を把握することが早期発見・早期治療に繋がります。特に、家族に糖尿病の人がいる場合や、生活習慣病が気になる場合は、積極的に受診しましょう。
よくある質問
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糖尿病と診断されたら、一生食事制限が必要ですか?
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糖尿病の治療において食事療法は非常に重要ですが、単なる制限だけでなく、バランスの取れた食事を続けることが大切です。当院では、患者様一人ひとりのライフスタイルに合わせた食事内容をご提案し、無理なく継続できるようなサポートをしています。軽症の場合や、生活習慣の改善によって薬が不要になることもあります。
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糖尿病は遺伝するのでしょうか?
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糖尿病には1型と2型があり、それぞれ原因が異なります。2型糖尿病は、遺伝的要因に加えて、食生活や運動不足などの生活習慣が大きく関わると言われています。ご家族に糖尿病の患者さんがいる場合は、ご自身も発症するリスクが高いと考えられますので、より一層生活習慣に注意し、定期的な検査を受けることをお勧めします。
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糖尿病の合併症は、どのようなものがありますか?
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糖尿病の3大合併症として、末梢神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症が挙げられます。これ以外にも、動脈硬化の進行による心筋梗塞や脳梗塞、免疫力低下、胃潰瘍、骨粗しょう症、緑内障・白内障、皮膚症状、精神疾患など、様々な合併症を引き起こす可能性があります。早期からの血糖コントロールが重要です。
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糖尿病の治療は、薬を飲み続けないといけないのでしょうか?
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糖尿病の治療は、患者様の状態や重症度によって異なります。生活習慣の改善で薬が不要になる方もいれば、内服薬や注射薬が必要となる方もいます。当院では、患者様一人ひとりに最適な治療法を提案し、新しい薬剤も考慮しながら、できるだけ患者様の負担を軽減できるよう努めています。
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糖尿病の検査はどのくらいの頻度で受ければ良いですか?
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糖尿病の診断を受けた方は、医師の指示に従って定期的な検査が必要です。まだ診断されていない方でも、生活習慣病が気になる方や、ご家族に糖尿病の方がいる場合は、年に1回程度の健康診断で血糖値やHbA1cを確認することをお勧めします。