症状・疾患について
Symptoms / Diseases咽頭痛について
咽頭痛はのどに細菌やウイルスが侵入することで炎症が起きる状態を指します。一般的に「風邪」と呼ばれる症状の多くはこの咽頭痛に該当します。
医療用語としての「風邪」という病名は存在せず細菌やウイルスのいる部位の炎症を指します。例えば、のどが痛い場合は咽頭痛(咽頭炎)、咳が出る場合は気管支炎、鼻水が出る場合は鼻炎といったように症状によって疾患名が異なります。咽頭痛はこれらの症状の中でも特に一般的なものです。
咽頭痛の原因の約9割はウイルス性であり、ライノウイルス、エコーウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなどが挙げられます。市販薬や病院で処方される鎮痛薬は、症状を一時的に和らげる対症療法でありウイルスそのものを除去するものではありません。
一方、残りの約1割は細菌性であり抗菌薬による治療が必要です。細菌性咽頭痛で可能性が高いのは溶連菌です。溶連菌は子供に多いとされていますが、大人も感染する可能性があるため注意が必要です。ウイルス性と細菌性の区別は非常に重要であり、ウイルス性咽頭痛に不必要に抗菌薬を使用すると効果がないだけでなく、口腔内の善玉常在菌を減らしたり薬剤耐性菌の発生を招いたりする問題があります。
のどは食べ物や空気の通り道の入り口であるため、咽頭痛が重症化すると咽頭膿瘍(のどに膿がたまる病気)や喉頭蓋炎(息の通り道の喉頭蓋まで炎症が及ぶ病気)など命に関わる状態になることがあります。また、鼻水が出る場合は副鼻腔炎、咳が出る場合は気管支炎や肺炎など他の病気が合併している可能性も考慮する必要があります。当院では「たかが風邪、されど風邪」と認識し、怖い病気の合併も考慮しながら診療にあたっています。
咽頭痛の症状について
咽頭痛の一般的な症状は以下の通りです。
- のどが痛い
- 鼻水が出る
- 咳が出る
これらの症状は「風邪」として認識されることが多いですが、のどの痛みは特に咽頭痛の代表的な症状です。
咽頭痛の診断と検査について
咽頭痛の診断において最も重要なのは原因が細菌性かウイルス性かを見極めることです。特に細菌性の場合、抗菌薬による治療が必要となります。
溶連菌感染が疑われる方の特徴は以下の通りです。
- 咽頭痛はあるが咳はない
- 38℃以上の発熱がある
- 首のリンパ節が腫れている、またはリンパ節を押すと痛む
- のどの奥の扁桃腺に白い付着物(白苔)がある(特に白苔がある場合は可能性が高まります)
その他、溶連菌を疑うリスクのある方として周囲に溶連菌の感染者がいた、小さなお子さんがいるまたは仕事柄接する機会が多い、以前も溶連菌で同様の症状があったなどが挙げられます。
溶連菌が陽性であった方や扁桃腺の腫れがひどい方、喉頭蓋炎が強く疑われる方などには採血を検討します。特に白血球の数値は細菌感染時に上昇することが多いため、細菌性かウイルス性か、そして細菌性であった場合の重症度を数値で確認するのに非常に有用です。目に見えない喉の奥に炎症がある可能性もあるため数値での重症度確認は非常に有用です。
また、咽頭痛にとどまらず全身にばい菌が回っている方やウイルス性の場合でもEBウイルスなどによる肝機能障害を起こす可能性があるため、採血が必要な方には肝臓や腎臓などの臓器障害、糖尿病など免疫力が低下する病気が合併していないかも一緒に精査することがあります。緊急性が高い場合は当院から電話でご連絡することもあります。
当院では患者様の症状やご希望に応じて診察方針を調整しています。ウェブ問診では以下の3つから選択していただくことで、患者様のニーズに沿った診療に努めます。
- A. 診察医にまかせる
- B. できるだけ簡潔に診察希望
- C. 今回の症状について詳しく検査希望
Bを選択された方でも、細菌性感染症の疑いがある、肺炎や副鼻腔炎などの合併が疑われる、点滴加療が必要そうな方など、症状によっては必要な検査をご説明することがあります。検査で異常がないことは喜ばしいことであり、重症化する前に確認できることは患者様にとっても安心に繋がります。
咽頭痛の治療法について
咽頭痛の最も重要な治療は、原因に応じた対症療法または原因療法を行うことです。
症状を和らげる対症療法として、症状に応じた薬剤を処方することが多いです。
- 喉の痛みに対して:トランサミン、カロナール、ロキソニンなど
- 発熱に対して:カロナール、ロキソニンなど
- 鼻水に対して:ポララミン、PA配合錠など
- 咳に対して:メジコン、フスコデなど
これらの対症療法は症状を和らげるだけであり、病気を早く治すわけではありません。むしろ症状が和らいだことで治ったと勘違いし、無理をしてしまうとかえって悪化したり長引いたりすることがあります。咽頭痛を含む風邪の原因となるウイルスの多くは自己の免疫力で治すしかないため、安静にすることが一番です。
一方、溶連菌検査で陽性だった方には抗菌薬による治療が必要です。内服薬としては昔からある抗菌薬であるサワシリンなどを処方することが多いです。溶連菌に対して強力に効くため、今でも第一選択肢として使われています。
溶連菌は決して軽視できない病気であり、お子様の場合、リウマチ熱(溶連菌の炎症が全身に波及し、関節痛、発熱、胸痛、動悸など全身症状が出る)や急性糸球体腎炎(腎臓の糸球体に炎症が起き、ろ過機能が低下して蛋白尿や血尿が出る)などの合併症のリスクがあります。また、大人でも「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」と呼ばれる致死率が30%と非常に怖い病態となることがあります。健康な方でも命に関わる怖い病気のため重症度を確認することが大切です。
溶連菌で症状が強い方、唾を飲むだけでも喉の痛みが強い方、発熱があり全身にばい菌が回っている可能性がある方などの場合は当院では点滴加療をご用意しております。アセリオなどの解熱・鎮痛薬を点滴することで症状を早急に改善することができます。また、点滴中に前述の採血を同時に行い結果を見ながら重症度を確認し、次の治療につなげることがあります。炎症反応が強い場合は総合病院での診察も考慮した方が良い場合があります。ただの喉の痛みと油断していると息の通り道が狭くなり命の危険性もあります。
当院では軽症例から重症例まで、柔軟に治療を行うよう努めております。咽頭痛の治療は細菌性とウイルス性で分けることが現在の複数のガイドラインで強く推奨されています。これは抗菌薬をウイルス性に使用すると効果がないだけでなく、口腔内の善玉菌を減らしたり、耐性菌の感染リスクを高めたりするからです。そのため当院では患者様のニーズを大切にしつつも、患者様に不必要、むしろマイナスになるような治療は行わないよう心がけております。
咽頭痛の予防について
咽頭痛の予防には以下の点が重要です。
- うがい・手洗い:こまめなうがいと手洗いは細菌やウイルスの侵入を防ぐ最も基本的な予防策です。
- 十分な休養:自己の免疫力で治癒することが多いため体力を落とさないよう十分な休養をとりましょう。
- 栄養バランスの取れた食事:免疫力を高めるためにバランスの取れた食事を心がけましょう。
- 適度な湿度:空気が乾燥すると喉の粘膜が弱くなるため加湿器などで適度な湿度を保ちましょう。
- 人混みを避ける:流行期にはできるだけ人混みを避け感染リスクを減らしましょう。
- マスクの着用:咳やくしゃみが出る場合は周囲への感染を防ぐためにもマスクを着用しましょう。
ウイルス性でも細菌性でも咽頭痛は他人にうつす可能性がある病気ですので、症状が改善するまではしっかりと休むようにしましょう。
よくある質問
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「風邪」と「咽頭痛」は同じものですか?
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一般的に「風邪」と呼ばれる症状の多くは、医療用語では「咽頭痛(咽頭炎)」に該当します。医療用語としての「風邪」は存在せず、原因菌がいると予想される部位の炎症を指す総称です。のどの痛みが主な場合は咽頭痛、咳が主な場合は気管支炎、鼻水が主な場合は鼻炎といったように、症状によって病名が異なります。
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抗菌薬はどんな時でも処方されますか?
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咽頭痛の原因の約9割はウイルス性であり、ウイルス性の場合、抗菌薬は効果がありません。不必要に抗菌薬を使用すると、口腔内の善玉菌を減らしたり、薬剤耐性菌の発生を招いたりする可能性があります。そのため、細菌性感染症、特に溶連菌感染症が疑われる場合にのみ抗菌薬を処方します。
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溶連菌感染症は子供だけの病気ですか?
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いいえ、溶連菌は子供に多いとされていますが、大人も感染する可能性があります。特に、免疫力が低下している方だけでなく、健康な方でも重症化するケースがありますので注意が必要です。
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喉が痛いだけなのに、なぜ採血が必要な場合がありますか?
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喉の痛みが主な症状でも、細菌感染の重症度を確認するためや、肺炎、副鼻腔炎などの合併症の有無、全身に炎症が波及していないかなどを確認するために採血を行うことがあります。特に、白血球やCRPといった炎症反応の数値は、目に見えない炎症の状態を把握する上で非常に有用です。
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症状が軽ければ、病院に行かなくても大丈夫ですか?
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症状が軽度でも、自己判断せずに一度医療機関を受診することをお勧めします。特に、細菌性咽頭痛の場合、適切な治療が行われないと重症化したり、他の合併症を引き起こしたりする可能性があります。また、ウェブ問診でご希望をお伝えいただければ、患者様のニーズに沿った診察が可能です。